満月まで少し足りない月が赤く光を放つ。
星はひとつとして見えず、その月だけが妖しく存在していた。
いつもだ。
こんな夜は心の奥底に抑えつけているこの感情をコントロールできない。
カラン・・・
グラスの氷が揺れ、妖しい月明かりが琥珀色の液体を照らす。
ベランダの窓へ近づき、月を仰ぐ。
気付いてしまった。
この感情は、この想いはもう消せない。
臆病な私はこの想いを伝えることはできない。
当たり前だ。
そんなことをして、この関係を壊してしまうことなどできるはすがない。
私は怖いのだ。
もう会えなくなることを。失うことを。そして、私を拒絶されることを・・・。
何度も何度も、打ち消した。この感情がどんなものがを考えた。悩んで迷って。
無駄だ。この想いはもう消せないのだ。
ゆっくりと瞳を伏せる。
不器用に真摯に生きる彼を、己の闇から目をそらさず対峙している彼を。
愛しく、ただ愛しく思う。
あの日出逢えた奇跡を、「親友」という位置にいられることを、嬉しく、また恨めしく感じる。
あぁ、同じことの繰り返しだ。
彼を愛していることには変わりはないのに・・・。
相反するこの想いは全て彼から齎されたもの。
月を仰ぐ。
赤い光が己を包み込む。
その光を全身に受け、アリスは愛しい名を呼んだ・・・。
「ひむら・・・」
|